誰かにイライラしたり、落ち込んだりしたとき、ふと立ち止まってこう考えてみてほしい。
「それって、本当に自分の問題だろうか？」
たとえば、朝から上司が不機嫌だったとする。
顔をしかめて、こちらの挨拶にもまともに返さない。
そんな様子を見れば、誰だって不安になる。
「何か自分が悪いことをしたのかもしれない」と。
でも、本当にそうだろうか。
上司が機嫌を損ねている理由が、自分の態度や行動にあるという証拠は、実はどこにもない。
もしかしたら、朝の通勤電車で嫌な思いをしたのかもしれないし、家庭で問題を抱えているのかもしれない。
そうだとすれば、その機嫌の悪さは、完全に上司の“課題”であって、あなたの責任ではない。
これは「課題の分離」と呼ばれる考え方で、人間関係の悩みに振り回されないための鍵になる。
簡単に言えば、「これは誰の問題か？」という問いを持つこと。
それだけで、無駄に抱え込んでいたストレスや罪悪感が、ふっと軽くなることがある。
親子関係にもよくある話だ。
子どもが勉強しない。
心配になった親は、「このままでは将来困る」と必死に説得したり、時には怒鳴ったりする。
でも本当は、「勉強するかどうか」は子どもの課題なのだ。
親の課題は、その子を信じて見守ること。
介入しすぎると、子どもは「勉強は親のためにやるもの」だと勘違いし、自分の意志で動けなくなる。
つまり、課題の境界があいまいになることで、かえって子どもの成長を妨げてしまうこともある。
私たちは、よく他人の問題を自分のものとして受け取ってしまう。
そして逆に、自分の問題を誰かに押しつけることもある。
友人が落ち込んでいるのを見て、「何とか元気づけなければ」と無理に励ますこともそうだ。
善意に見えて、実は「その人の感情を自分で抱え込んでいる」状態だ。
本当の思いやりは、相手の感情に寄り添いながらも、それが「その人自身の課題」であることを忘れないことではないか。
この考え方は、実はとても静かで、あたたかい。
他人と距離を置くというより、他人を信じることにつながっている。
「あなたにはあなたの人生がある。
私はそれを尊重する」と心の中でそっと言えるようになると、自分の心も守られる。
そして、自分がすべきことに集中できる。
誰かの反応に一喜一憂したり、必要以上に背負いこんだりすることは、案外、誰も求めていない。
むしろ、自分の人生に責任を持ち、他人の人生に過剰に介入しない人のほうが、信頼される。
なぜなら、その人は“自分”と“他人”の境界をきちんと理解しているからだ。
課題の分離とは、冷たくなることではない。
むしろ、その人の力を信じて、余計な手出しをしない勇気だ。
他人の課題を引き受けすぎないことは、自分を守ると同時に、他人を信じる行為でもある。
そしてなにより、自分の課題から目をそらさずにいること。
それが、自分の人生を本当に生きるということだ。
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