人に合わせすぎてしまう人は、周囲との関係を大切にしようとする気持ちが強い。
相手の気分を害さないように振る舞ったり、その場の空気に合わせたりすることは、一見すると思いやりや協調性の表れのように思える。
しかし、それが習慣化すると、ふとしたときに「自分は本当はどう思っていたのか」がわからなくなることがある。
これは心理学では「自己喪失」と呼ばれ、周囲に合わせすぎることで自分の価値観や感情が曖昧になってしまう状態を指す。
背景には、拒絶を恐れる気持ちや、認められたいという欲求が潜んでいることが多い。
人から好かれたい、嫌われたくないという思いは誰にでもあるが、それが強くなりすぎると、自分の内側にある声が聞こえにくくなってしまう。
自分を見失わないためには、まず「自分の気持ちに気づくこと」が必要である。
たとえば、人との会話のあとに、ほんの数秒だけでも「今、無理していなかったか」「本音と違うことを言っていなかったか」と自分に問いかけてみる。
思ったことをスマートフォンのメモに短く残すのもよい。
こうした習慣を通じて、自分の気持ちを意識的に捉える力が育っていく。
また、他人に合わせることが多い人ほど、断ることに苦手意識を持っている。
しかし、自分を守るためには、無理な誘いや頼まれごとに対して「ノー」と言う練習も必要である。
あらかじめ断り文句を考えておき、心の中で繰り返しておくと、実際の場面で言いやすくなる。
「今回は難しい」「またの機会にお願いしたい」といった柔らかい言い方を覚えておくとよい。
さらに、自分が何に心地よさを感じ、何にストレスを感じるかを整理することも役に立つ。
紙に「好きなこと」と「苦手なこと」を書き出してみるだけでも、自分がどんな価値観を持っているかが見えてくる。
これが、自分の行動や選択の軸を作る手助けとなる。
人に合わせることは悪いことではない。
ただし、それが自分の本音や希望を押し殺すものであってはならない。
他者に対して優しさを向けるのと同じように、自分の気持ちにも丁寧に耳を傾けることが、自分を見失わないための第一歩である。
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