ときどき、自分の気持ちが自分の手に負えなくなることがある。

何でもないはずの言葉に深く傷ついたり、ちょっとした沈黙に見捨てられたような気がしたり。
心が勝手に走り出し、頭では「そんなことない」と分かっていても、止められない。

こんなふうに感じることが多いなら、それは「情緒が不安定な状態」にあるのかもしれない。

情緒が不安定とは、感情の波が高く激しく、しかもその波がどこから来るのか、いつ引くのか、自分でも分からないような状態のことだ。

喜び、悲しみ、怒り、不安――そのすべてが急にやって来て、通り過ぎたあとには疲労感だけが残る。

「またやってしまった」「自分は面倒な人間なのかもしれない」と、自分を責めてしまうこともある。

でも、まず知っておいてほしい。

それはあなたが「弱い」からではない。
心のどこかが、うまくバランスを取れなくなっているだけなのだ。

そのバランスは、育った環境や過去の経験、あるいは脳の働きによって少しずつ形作られてきたもので、自分の意思だけでどうにかできるものではないこともある。

たとえば、子どものころ、安心できる場所や「大丈夫だよ」と包んでくれる存在が少なかった人は、大人になってからも他人の態度に過剰に反応してしまうことがある。

また、過去に心を深く傷つけるような出来事を経験した人は、その記憶が小さなきっかけで蘇り、今の感情に影響を及ぼすことがある。

それは、心があなたを守ろうとしている証でもある。

脳の働きもまた、私たちの感情に大きく関わっている。

感情を感じる部分が敏感すぎると、何気ない出来事にまで反応してしまう。

逆に、それを抑える力がうまく働かないと、自分でも「なんでこんなにイライラするのか」が分からなくなる。

感情というのは、ただ自然に湧いてくるものではなく、脳内の化学反応や過去の記憶が組み合わさって生まれているのだ。

けれど、だからこそ希望もある。
心は少しずつ、整えていくことができる。

たとえば、感情が揺れたときにその理由を言葉にしてみるだけでも、心の嵐は少しだけ収まる。

「今、私は不安なんだな」と声に出してみる。
自分の気持ちを他人に説明するのではなく、自分自身にそっと伝えるように。

すると、不思議なことに、脳はその感情を冷静に処理し始める。

また、感情をメモする習慣も助けになる。

日々の中で、自分がどんなことに揺さぶられているのかが少しずつ見えてくる。
無意識に反応していたことが、意識の光に照らされることで、少しずつ変わっていく。

それは、心に地図を描いていくような作業だ。

そして何より大切なのは、自分を責めないこと。
感情の波にのまれた日も、うまくやれた日も、どちらも「今のあなた」なのだ。

どちらが良い・悪いではない。
心とは本来、天気のように移ろうもの。
だから、不安定であることは、ある意味でとても自然なことなのかもしれない。

必要なら、誰かに助けを求めてもいい。
カウンセリングや専門家の手を借りることは、弱さではなく、自分を大切にする選択だ。
そして、たとえゆっくりでも、自分の心と丁寧につき合っていく中で、少しずつ揺れが穏やかになっていく瞬間が必ずやってくる。
情緒が不安定な人は、感情の波を知っている人だ。
その分、人の痛みや喜びにも深く共鳴できる。
その繊細さは、人生を苦しめるものでもありながら、美しくする力にもなり得る。
感情に悩むことは、感情を知ろうとすること。
それは、決して後ろ向きなことではなく、心の奥にある光へと向かう、静かな歩みだ。
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