人脈が多いことは、仕事や人生において有利だとよく言われる。
しかし、多くの人が「人脈が多い＝成功に近づいている」と思い込み、連絡先の数やSNSのフォロワーの多さをその指標にしてしまう。
これは大きな錯覚である。
人と名刺を交換したり、ネット上で繋がったりしただけで、その関係が実際に機能することはほとんどない。
そもそも、人脈とは何か。
単に「知っている」「繋がっている」という状態を人脈と呼んでしまうと、数だけが重要だという勘違いにつながる。
本当に価値のある人脈とは、自分が困ったときに手を差し伸べてくれる人や、自分のことを信頼して他人に紹介してくれるような人のことを指す。
そのような関係は、ただの繋がりではなく、信頼関係の上に成り立っている。
人間が深く信頼できる関係を保てる人数には限りがある。
これは「ダンバー数」と呼ばれ、脳の処理能力や社会的な関係維持の限界から導き出されたもので、およそ150人が上限だとされている。
中でも、心から信頼できる親しい人間関係に限れば、5人から15人程度に収まる。
つまり、どれほど多くの人と表面的につながっていたとしても、実際に頼れる相手はごくわずかである。
また、名刺をたくさん持っていることや、多くの人とSNS上で繋がっていることに安心感を覚えるのは、人間の脳が数に対して錯覚を起こしやすいためである。
人は「数が多いものほど価値がある」と思い込みがちだが、関係の質を伴わない繋がりには、実質的な意味がない。
むしろ、広く浅いつながりばかり増えることで、かえって孤独感や無力感を覚える人も多い。
これは、つながりが多いはずなのに心を開ける相手がいないという、現代的な矛盾である。
とはいえ、まったく親しくない相手との関係がまったく無意味というわけではない。
社会学では、あまり親しくない相手とのつながりから、思わぬ情報やチャンスが流れてくることがあるとされている。
これを「弱い紐帯」と呼ぶ。
ただし、それが有効に働くためには、自分自身が信頼に足る人物であることが前提になる。
浅いつながりでも、相手が「この人になら任せられる」と思わなければ、チャンスは生まれない。
人脈は数を集めるものではなく、信頼を積み重ねて育てるものである。
誰とでも繋がろうとするよりも、少数の人としっかりと信頼関係を築くほうが、はるかに実用的である。
名刺やフォロワーの数に安心するのではなく、実際に助け合える関係かどうかに目を向けるべきだ。
人脈とは、単なるつながりではなく、信頼の履歴そのものである。
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