初対面の人との会話が苦手だと感じる人は多い。
緊張して言葉が出てこなかったり、沈黙が気になって焦ってしまったりするのは、ごく自然な反応である。
しかし、実際には会話の得手不得手は生まれつきの能力ではなく、思い込みや習慣によって変えられるものである。
まず知っておきたいのは、人は自分が思っているほど他人に注目されていないという事実である。
心理学では「スポットライト効果」と呼ばれ、自分の言動が過剰に目立っていると錯覚する傾向がある。
だが現実には、相手もまた自分のことで頭がいっぱいであり、こちらの些細な失敗などほとんど気にしていないことが多い。
会話をスムーズに進めるうえで特に有効なのは、「話す」よりも「聞く」に意識を向けることである。
たとえば初対面の場では、自分から話題を無理に振ろうとするよりも、相手に質問を投げかける方が、会話の流れが自然になる。
特に「どんな○○が好きですか？」「最近ハマっていることはありますか？」といった、自由に答えられるオープンクエスチョンが効果的である。
実際、ハーバード大学の研究によれば、3回以上質問をした人の方が、会話後に好印象を持たれる傾向があるとされている。
会話が始まる前に「3つ質問してみよう」と小さな目標を立てておくと、余計なプレッシャーを感じずに話しやすくなる。
また、会話においては、自分のことを少し話すことも効果的である。
これを「自己開示の返報性」と呼び、相手も自然と自分のことを話しやすくなる心理が働く。
「実はこの場にちょっと緊張していて…」と素直に言うことで、相手との間に安心感が生まれ、会話が和やかになることもある。
自分の話をする際には、無理に面白くしようとせず、「最近ちょっと嬉しかったこと」や「ちょっとした日常の失敗談」など、身近で共感を呼びやすい話題が向いている。
緊張を和らげる方法としては、感情の捉え方を変えることが役立つ。
人は「緊張」と「ワクワク」を身体的にはほとんど同じように感じている。
ハーバード・ビジネス・スクールの研究では、「緊張している」と思ったときに「これは楽しみなだけだ」と言い換えることで、パフォーマンスが改善することが示されている。
会話の前に「これは良い出会いのチャンスだ」「どんな面白い話が聞けるだろう」と前向きに言葉にしてみるだけで、不安が軽くなることがある。
また、相手に興味を持つ姿勢も会話を続ける助けになる。
相手を「どんな物語を持った人だろう」と想像してみると、自然と観察の視点が働き、質問も湧きやすくなる。
相手の話す内容だけでなく、声のトーンや表情、身につけている物などからも話題のヒントは得られる。
たとえば「その時計、素敵ですね。
どこで買われたんですか？」といった、ちょっとした気づきから会話が広がることもある。
会話が苦手だという意識の根底には、「うまくやらなければならない」という思い込みがあることが多い。
しかし、会話とは試験ではなく、相手と時間を共有するための自然なやりとりである。
完璧な言葉や話術は必要ない。
むしろ、相手の話にしっかり耳を傾け、少しだけ自分を開き、興味を持とうとする姿勢こそが、最も相手に伝わる。
失敗しても構わないし、沈黙も気にしすぎる必要はない。
小さな工夫と少しの練習で、会話への苦手意識は着実に克服できる。
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