人の目が気になってしまうのは、ごく自然な感情である。
これは意志の弱さや性格の問題ではなく、人間に備わった本能のようなものといえる。
太古の昔、人は集団で生活しており、仲間から受け入れられることが生き残るために欠かせなかった。
仲間外れにされることは、時に命の危険につながったため、他人からどう見られるかを気にする力は、生存のために進化の中で育まれてきた。
しかし、現代社会ではそのような極端なリスクはほとんど存在せず、多くの場面で人の評価は命に関わる問題ではない。
それでも本能はすぐには変わらず、必要以上に人の目を意識してしまうことがある。
このような不安をやわらげるには、まず自分がどのような場面でどのような思考にとらわれているのかを把握することが大切である。
たとえば、人前で話す前に「うまく話せなかったらどうしよう」「変に思われるかもしれない」という考えが浮かぶことがあるだろう。
このような思考を紙に書き出すと、自分の中で自動的に反応しているパターンが見えてくる。
書くことによって、頭の中で曖昧だった不安が整理され、距離をとって眺められるようになる。
次に大事なのは、「気になったけれど実際は何も起こらなかった」という経験を積み重ねることである。
たとえば、あえて少し恥ずかしい行動をしてみるとよい。
買い物中に少し変な質問をしてみたり、あいさつに少しユーモアを加えてみたりするだけでもよい。
最初は緊張するが、案外周囲は何も気にしておらず、自分が思うほど注目されていないことに気づく。
脳は経験によって更新されるので、「気になったけど問題なかった」という体験を繰り返すことで、不安の反応も少しずつ弱まっていく。
また、不安を感じるときは「どう思われるか」に意識が集中していることが多い。
そういうときは、「自分が何をしたいのか」「何を伝えたいのか」といった目的に意識を戻すことが有効である。
たとえば、人前で話すときに「評価されたい」ではなく「相手に分かりやすく伝えたい」という意識に切り替えると、不思議と緊張がやわらぐ。
目的に集中すると、自分の中に軸ができ、人の反応に揺さぶられにくくなる。
さらに、他人の評価に強く影響される背景には、自分の価値を外からの評価で決めてしまっていることがある。
これを防ぐには、自分の行動や努力を自分で認める習慣が必要である。
たとえば、「今日はちゃんと起きられた」「嫌なことを断れた」など、どんなに小さなことでも一つだけ書き留めてみるとよい。
自分で自分を認める力は、外の声に過剰に左右されないための土台になる。
あわせて、自分のことを受け入れてくれる人を思い出しておくことも助けになる。
信頼できる人が数人いるという事実を確認できるだけで、不安を感じたときの心の避難場所ができる。
人の目が気になるときほど、孤独感や不安が増幅されるため、「誰かは自分をわかってくれる」という感覚を持つことが、不安の波をやり過ごす手助けとなる。
人の目が気になる気持ちは、消し去ることは難しい。
しかしその感情とどう向き合うかを知り、少しずつ反応を変えていくことで、気にならない状態に近づけることはできる。
不安は本能の残り香にすぎない。
それを理解し、自分なりの対処法を身につけることで、他人の目から自由になる感覚を得ることができる。
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